カメラ片手に・・・写真などいろいろなこと

趣味で撮った写真や、読んだ本の要約などをご紹介します

ラブホテル裏物語 10

「ラブホテル裏物語」大月京子著 バジリコ 2008年より

<月に一度のホームレス>

フロントの男性たちの間で「プロフェッサーすし」と呼ばれている常連さんがいます。
私も一度だけ見かけました。年令は50代後半くらいでしょうか。小柄でやせていて、頭は角刈りに近い短髪。かなり着古したような背広を着ていましたが、身だしなみに気を使っているようで、全身から一種独特な清潔感が漂っていました。

「もう1年くらいですかね。平日の夕方なんかにちょくちょく来るんです。相手はいつもホテトル。終わってからよくビールを頼んで、1杯飲んで帰ってますよ」
と言うのはフロント係の若い男の子、下柳くん。
「あまり喋らないんだけど、けっこう気さくなんです。ビール持って行くと『兄ちゃん、いつもありがとね』って言ってくれたり。物腰がやわらかくて感じがいい人なんで、みんな『今日もあのおじさん来てたね』なんて噂してたんです」

それである時、誰かがふと何の仕事しているのか聞いてみたそうです。
「そしたら答えが、大学教授。経済学で国際金融とか投資が専門だって。こう言っちゃ悪いんですけど、そんな風には見えないんですよね。でも一応こっちも『すごいっすねえ、じゃ今度、株の買い方教えてくださいよ~』なんて言ってたんですけど」

ところがそれからしばらく経ち、思いがけず「教授」を見たという人が現れました。
「昼間入ってる○○さんいるでしょ。彼がたまたま仕事帰りに近くの回転ずしに行ったら、そこで握ってたんですって。教授が」
「それ聞いてもうみんな大笑い(笑)。いや別にすし屋さんの何かおかしいってわけじゃないですけど、国際金融とか投資だっていうイメージとの落差がウケちゃったってこと。それ以来誰が言い出したのか、あだ名が『プロフェッサーすし』になっちゃったわけです」
なぜその人が「教授」だなどと嘘をついたんでしょうか。下柳くんは、たぶんこういうことじゃないかと話してくれました。
「デリヘルの子にいつもそういう話をしてるんじゃないですか。そんな風に自分で世界作って、ラブホに来ると『俺は教授だ』みたいに思い込んじゃう。だから俺らにも同じようにホラ話しちゃうんじゃないか・・・って思います」

「プロフェッサーすし」は人柄もいいし部屋もきれいに使ってくれるし、私たちにとってはいい常連さん。ほかにも、来るたびにお土産を持ってきてくれる奇特な男性がいました。けっこう年配で、仕事は何か事業をしているとのこと。相手の女性は時々違いますが、たぶん水商売関係の人なんでしょう。

そんな常連さんたちがいる一方で、当然ながらヘンな常連さん、困った常連さんというのもいます。いまも来ているなかで特に印象深いのは、ホームレスのおじさん。1~2ヵ月に一度くらい、1人で泊まりに来るんです。
新宿、渋谷に限らず、大きな歓楽街にホームレスはつきもの。人が集まるところのほうが、衣食住にも何かと便利らしいですからね。渋谷の場合、宮下公園、代々木公園あたりにそうした人たちがたくさんテント暮らしをしています。
住む家はないけれど、あの人たちも働いていないわけじゃありません。恐らく廃品回収なんかの仕事で貯めたお金を持って、たまにラブホテルに来るわけです。といってもデリヘルを呼ぶわけでなく、チェックインからチェックアウトまで1人きり。ゆっくりお風呂に入って、テレビでも見て過ごすみたいですね。

初めて廊下で見かけた時、衣類が入ったビニール袋を持っていました。私はてっきりゴミだと思って「こちらでお捨てしておきましょうか」って言ったら、えらく怒られちゃった(笑)。「おれの大事な服なんだよ!」って。
要するに公園かどこかに置いて出かけたら、誰かに持っていかれちゃう恐れかある。それで服やら何やらを全部持ち歩いているんでしょう。でもまあそんなやり取りがきっかけで、ちょっと話す機会ができたんです。
「金貯めてホテル来るのが楽しみなんだよ。ゆっくり風呂に入ってくつろいでさ。いつも行くとこないから、公園で洗ってんだよ、公園で」
お風呂が目的なら一度のホテル代で何十回でも銭湯に行けるんじゃないか・・・と普通は思うでしょう。でも見た目がホームレスだと、銭湯は断られて入れてもらえないそうです。それに彼にとっては、何十回も銭湯に行くより、一晩1人きりでホテルで過ごすほうが幸せなのかも知れません。お金の使い方はその人それぞれですからね。

そうしてラブホテルで一晩過ごし、また公園での生活に戻っていく・・・。そんなホテルの楽しみ方もあると思うと、やはり人生色々だなあと痛感させられます。
ただしその後でバスルームの清掃に入る人は、ちょっとお気の毒。これでもかというほどたっぷりの垢が、浴槽一面に浮かんでいるからです。こればっかりはしょうがないとはいえ、見るたび毎回やれやれと思わないわけにいきません。

このホームレスの常連さんはちょっと極端ですが、似たようなお客さんは案外多いんです。
セックスじゃなくて、ただ泊まってゆっくりするだけという人。なかには「もしかしてこの人も公園で生活してる人?」みたいなお客さんも、実は少なくありません。

家がなくてホテルに来る人といえば、もっと極端な例にも出食わしました。それは、いわゆる「志願者」。自分からすすんで警察に捕まって刑務所に入りたいという人です。

私が直接体験したのは、前に勤めていたホテルでのこと。年の瀬も間近い12月の朝でした。
1人で泊まった中年男性が受けつけにやって来て、こう言ったんです。
「金は持ってない。警察呼んでくれ」
事情が飲み込めないので、しばらくその男性とヘンなやり取りをしてしまいました。
「お金を盗られたんですか?」
「いやだからねえつってんだろ」
「はあ?」
「いいから早く警察呼んでくれ」

様子がおかしいことに気づいたほかの従業員も集まってきて、ようやく何が起こっているか理解しました。それで社長に相談してから110番して、お巡りさんを呼んだわけです。

110番してから警察が来るまでの間、その男性は受けつけの前であれこれ喋っていました。数日前に刑務所から出てきたばかり、でも天涯孤独で行くところがひとつもない。こんな年の瀬で野宿するのも辛いので、もう一度刑務所に行くしかない・・・と、そんな話です。深刻な内容の割に表情も変えず、ただ淡々と話していました。

男性は見た目50代くらいでしょうか。小柄で肌は浅黒く、短く刈り込んだ頭は白髪ばかり。どこか西のほうの訛(なま)りがあったのが印象に残っています。作業服のようなズボンに薄手のジャンバーを羽織り、外の風が吹き込む1階で寒そうにしていました。

こっちは手持ち無沙汰だと気まずいので、お茶なんか出して気を使ったりしているうちに、パトカーが到着。男性はもうこちらには見向きもせず、「ここじゃ何だから、警察行こうな、な」
と言うお巡りさんと一緒に早足で出ていきました。



つづく・・・予定です。図書館の貸し出しを延長しました。

テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2016/09/12(月) 00:03:00|
  2. ブログ
  3. | コメント:0
<<無題 | ホーム | 谷山浩子 「風の子供」(幻の歌詞付き) 「人形の家」>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

phm202

Author:phm202
ブログをご覧いただきありがとうございます。

40代半ば 男性 神奈川県在住 プロラボ勤務経験あり 主にデュープと複写作業をしていました フォトマスター検定1級 写真専門士

好きなこと・・・写真撮影(鉄道写真など) 読書(自己啓発、成功法則、ビジネス系など)

累計納税額日本一の事業家 斎藤一人さんの考え方、生き方に影響を受けています。

使用機材
PENTAX K-m
DA L 18-55mmF3.5-5.6AL
DA L 50-200mmF4-5.6ED
Nikon COOLPIX P330     

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (1)
ブログ (253)
吉本新喜劇 (6)
自己啓発・成功法則 (448)
日常 (42)
写真 (664)
散歩 旅行 (19)
ついてるカード (78)
お酒 (7)
仕事 (2)
スピリチュアル (16)
今日のひとりさんの言葉 (23)
斎藤一人さん (189)
谷山浩子 (88)
鉄道写真 (71)
落語 演芸 映画 (7)
音楽 (95)
小林正観さん (59)
プラモデル・模型など (39)

FC2カウンター

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

PR

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR